労働者派遣法改正 ~派遣先(受け入れ先)から見た留意点~

昨年平成27年秋の労働者派遣法改正により、派遣社員を受け入れる「派遣先」の事業所にも様々な対応が求められることとなりました。
法改正直後には「労働契約申し込みみなし制度」も施行されています(本誌2015年9、11月号)。
今回は派遣先からみた法改正の留意点をまとめました。
多くは昨年平成27年9月30日以後に新たに結ばれた労働者派遣契約から対象となります(6の正社員募集時の周知義務など施行日からすぐに適用されるものもあります)。
詳細はご相談ください。

1.派遣先は同一の組織単位で3年超、継続して同一の派遣社員を受け入れてはならない

新たに個人単位で3年間を上限とする期間制限が設けられました。同一の事業所内の同一の組織で同一人物であれば、業務が変わっても、派遣元が変わっても通算されます。
ちなみに同一の組織単位とは、課、グループなど名称を問わずその組織の長が業務配分や労務管理上の指揮命令権限を持つ単位を指します。
また、この期間制限は3ヶ月超の期間(クーリング期間)をおくことでリセットされます。
なお無期雇用や60歳以上など一定の派遣社員の場合、個人単位の期間制限の対象外とされます。

2.派遣先は同一事業所で3年超、継続して派遣社員を受け入れてはならない(所定の手続きにより期間延長も可)

このほか、事業所単位で受け入れは3年間までという期間制限も設けられました。こちらは個人単位の制限と異なり、派遣先の事業所全体を基準に判断します。
ただし、派遣先は期間制限に抵触することになる日の1ヶ月前までの日に、事業所の過半数労働組合(ないときは事業所の労働者の過半数を代表する者)から意見を聴いて3年まで派遣可能期間を延長することができます。
その後も同様の手続きにより、延長することができます。
意見聴取の手続きについては、書面による事前通知や反対意見があったときの説明、記録保管と従業員への周知などが義務付けられています。
この期間制限についても、3ヶ月超の期間(クーリング期間)をおくことでリセットされます。
また無期雇用や60歳以上など一定の派遣社員については、事業所単位の期間制限でも対象外とされています。

 

3.派遣先はあらかじめ派遣元に事業所単位の期間制限に抵触する日を通知しなければならない

 派遣先は労働者派遣契約の締結にあたり、あらかじめ派遣元事業主に事業所単位の期間制限抵触日を通知しなければならないとされています。
上記の手続きにより派遣可能期間を延長した場合も、速やかに延長後の期間制限抵触日を通知しなければなりません。
なお無期雇用や60歳以上など期間制限の対象外となる派遣社員を受け入れる場合は通知義務はありません。

4.期間制限の対象外となる派遣社員

次の場合は、常用社員から派遣社員への置き換え(常用代替)のおそれが少ないとして、期間制限の対象外とされました。

イ.無期雇用されている派遣社員の受け入れ
ロ.60歳以上の高年齢の派遣社員の受け入れ
ハ.有期プロジェクト業務への派遣の受け入れ
ニ.月10日以下の日数限定業務への派遣の受け入れ
ホ.産休、育休等を取得する労働者の代替要員としての派遣の受け入れ
へ.介護休業等を取得する労働者の代替要員としての派遣の受け入れ

5.派遣元から依頼があったときの雇入れ努力義務

次の場合は、その派遣社員を遅滞なく雇い入れるよう努めなければならないとされています。

イ.組織単位毎の同一の業務に1年以上の期間、
ロ.「1年以上3年未満派遣される見込みの有期雇用の派遣社員」または「1年以上派遣元に継続して雇用された有期雇用の派遣社員」を受け入れ、
ハ.派遣終了後、引き続きその業務のために新たに従業員を雇い入れようとする場合で、
二.その派遣社員の希望があり、派遣元から直接雇用の依頼があったとき

6.派遣社員への募集情報の周知義務

同一の事業所に1年以上受け入れている派遣社員には、「正社員」を募集する際は本人に募集情報を周知しなければなりません。
また同一の組織の業務に継続して3年間受け入れる見込みのある一定の有期雇用の派遣社員(5.ロ.の派遣社員)には、本人が希望していて、派遣元から直接雇用の依頼があったときは、その事業所で直接雇用の募集する際に本人に募集情報を周知しなければなりません。

7.派遣社員のキャリアアップ支援のための派遣先の努力義務

派遣先は、派遣社員のキャリアアップ支援措置が適切に講じられるよう、派遣元の求めに応じ、その派遣社員と同種の業務に従事する派遣先の社員に関する情報を提供するなど、必要な協力をするように努めなければならないとされています。

8.派遣社員の賃金決定についての配慮義務

派遣元に「派遣社員と同種の業務に従事する派遣先の労働者との均衡に考慮して適切な賃金を決定すべき配慮義務」が課されているため、派遣先は派遣元からの求めがあったときは、賃金水準の情報提供等、配慮しなければならないとされました。
賃金情報の公開に支障があるときは、同種の職種の求人情報を公開したことがある場合にはその情報、同種の職種の業界の賃金相場、あるいはこれらに準ずる情報の提供でよいとされています。
このほか新たな「派遣先指針」では、派遣先に対し、派遣料金額の決定にあたって、同種の業務に従事する労働者の賃金水準と均衡が図られたものとなるよう努めることが求められています。

9.派遣社員の教育訓練についての配慮義務

派遣先は、自社の従業員に対して業務遂行に必要な能力を習得させるための教育訓練を実施している場合に、派遣元から求めがあったときは、同種の職種の派遣社員にも原則として同じ訓練を実施するよう配慮しなければならないとされました。

10.派遣社員の福利厚生についての配慮義務

派遣先は、自社の従業員が利用できる福利厚生施設のうち、「給食施設」「休憩室」「更衣室」については、派遣社員も利用の機会を与えるよう、配慮しなければならないとされました。

11.その他の新たな対応事項

(1)派遣先管理台帳の記載事項の追加

次の項目が追加されました。

「無期雇用か有期雇用か」「教育訓練を行った日時と内容」
「派遣受入期間の制限を受けない満60歳以上の者か否か等」

(2)適切な苦情の処理

派遣先はセクハラ、パワハラ等についても、派遣社員からの苦情に対して適切かつ迅速に処理を図らなければならないとされました。
また労働者派遣契約に苦情の窓口担当者、処理方法、派遣元との連携方法等を明記するほか、苦情対応についてその都度派遣先管理台帳に所定事項を記録するなど、留意することとされました。

(3)安全衛生に関する措置

派遣先は、派遣元が派遣社員の安全衛生に関する措置を実施できるよう、必要な協力や配慮をしなければなりません。
安全衛生教育実施時の情報提供や、健康診断等の結果にもとづいて派遣元から要請があった場合の協力などが定められています。

(4)派遣元との連絡体制の強化

派遣先は適正に把握した実際の労働時間等について、派遣元に正確に情報提供することとされました。

 

派遣先はこれらの規制のほか、派遣受け入れ期間の違反等が「労働契約申し込みみなし制度」の対象となること等も考慮し、対応していく必要があります。詳細はご相談ください。

(塩澤)