会社が年休の取得日を変更できるケースとは ~年次有給休暇の時季変更権~

 人手不足の職場や、繁忙期等、実務上、職員の年次有給休暇の消化が困難なケースがあります。今回は会社が年休消化の取得時季を変更できる「時季変更権」について、変更するための条件等をまとめました。

 

(1)年次有給休暇の「時季変更権」とは

 年次有給休暇は、法定の期間継続して勤務し、所定勤務日数の8割以上勤務した職員に、法律で定められた日数を与えること、と労働基準法に定められています。
職員側から見ると、一定の条件を満たせば、法律上、当然に取得するものといえます。

 過去の判例でも、職員からの「有給休暇の申請」は、有給休暇の取得そのものの承認を求める行為ではなく、「有給休暇を消化する時季を指定する行為」に過ぎないとされています。

 一方、会社側から見れば、有給休暇の消化そのものを裁量する余地はありません。
ただし労働基準法には、申請された時季に有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる」場合には、会社がほかの時季に与えることができるという定めがあります。これを「時季変更権」といいます。

 

(2)「事業の正常な運営を妨げる」場合とは

 どのような状況がこの「事業の正常な運営を妨げる」場合に該当するかは、その職員の所属している事業場を基準として、下記のような諸々の事情を考慮し、客観的に判断すべきものとされています。

①事業の規模と内容
②その社員の担当する作業の性質・内容と作業の繁閑
③代行者の配置の難易
④労働慣行
⑤申請のあった時期など

 また、会社が時季変更を行なう場合には、できるだけ職員が指定した時季に休暇をとれるよう、配慮することが求められます。

 このほか、過去の判例に様々な判断基準が示されています。

勤務割などの勤務体制による事業場で、会社として通常の配慮をすれば勤務変更による代替が可能な場合は「事業の正常な運営を妨げる場合」にはあたらないとされた例

単に慢性的な人員不足を理由として複数回、時季変更権が行使され、違法とされた例

①職員が長期かつ連続の年次有給休暇を取得しようとする場合、②事業の正常な運営を確保するため、業務計画、ほかの職員の休暇予定等との事前調整を図る必要が生じ、③休暇の時季、期間についてどの程度の修正、変更を行うかについてある程度の裁量的判断を会社側に認めざるを得ず、④この判断が職員に休暇をとらせるための状況に応じた配慮を欠くなど不合理でないと認められるときは、時季変更権の行使は適法とした例 など

 

(3)「時季変更の協議」「申請期限」に制約はあるか

 一方で、時季変更について会社から社員に打診し、本人の合意を前提に調整することは時季変更権の行使にはあたらず、このような制約はありません。
もちろん強制的な効力はありませんが、より柔軟な対応が可能であり、現実的な対応といえます。

 職場での調整がしやすいよう、相応の期間を置いて前もって申請するよう、職場の原則的なルールを取り決め、職員に要請しておくことも肝要です。

 ただし申請期限を設けた場合であっても、申請期限の超過のみをもって取得時季を変更することはできず、会社による一方的な変更は「事業の正常な運営を妨げる」場合にのみ可能であることが前提となります。

 

(4)法定年次有給休暇の日数など

 初回は6か月、以降は1年間継続して勤務し、それぞれの期間、所定勤務日数の8割以上勤務した職員について、6か月目に10日、以降それぞれ11日、12日、14日、16日、18日、20日(以降20日)が付与されます。

 また週の所定勤務時間が30時間未満で、所定勤務日数が4日以下の職員には、次のように週所定勤務日数に応じた日数が付与されます。

①週所定30時間未満かつ週所定4日以下のとき

比例付与日数=通常の付与日数×週所定勤務日数÷5.2日
(1日未満の端数は切り捨て)

 同様に週所定勤務時間数が30時間未満で、週以外の期間で所定勤務日数が定められている場合、年間の所定勤務日数が216日以下の職員については、年間の所定勤務日数に応じた日数の年次有給休暇が付与されます。

②週所定30時間未満かつ年間所定勤務日数216日以下

169日以上 216日以下のとき = 式①で 週4日として計算した日数
121日以上 168日以下のとき = 式①で 週3日として計算した日数
73日以上 120日以下のとき = 式①で 週2日として計算した日数
48日以上 72日以下のとき = 式①で 週1日として計算した日数

 

(5)年次有給休暇の計画的付与制度とは

 各人の年次有給休暇のうち、5日を除いた残りの日数については、労使協定を結ぶと、会社側が計画的に休日取得日を割り振ることができます。

 割り振る方法としては、「一斉付与方式」「交替制付与方式」「個人別付与方式」などがあります。

※この記事は「企業実務」2016年8月号「実務よろず相談室」塩澤寄稿記事をもとに再構成しました。