試用期間と本採用拒否 ~実務対応上の留意事項~

 「試用期間」は、新たに採用した労働者の適性等を評価し、本採用の有無や採用後の処遇等を判断する目的で設定されます。
本採用を拒否する場合は解雇にあたりますので、解雇規制を念頭におき、慎重に対応する必要があります。
今回は試用期間や本採用拒否について、労務管理の実務で留意すべき事項等をご紹介します。

 

(1)試用期間の法的な性質とは?

 試用期間は通常、長期の雇用契約の開始直後に設定され、その期間中も雇用契約の本体そのものは成立しています。
試用期間は「雇用契約は成立しているものの、使用者側に本人の本採用を拒否する権利が保持(留保)されている期間」と考えられています。

 

(2)本採用の拒否の法的な性質とは?

 試用期間中に本人に社員としての適格性がないと判断した場合には本採用を拒否し、雇用契約を解除します。雇用契約の一方的な解約=解雇には法規制があり、本採用の拒否も例外ではありません(双方の合意により解約する場合は規制の対象外です)。
通常、解雇は「客観的で合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる」場合でなければ権利の濫用として無効とされます。
本採用の拒否については通常の解雇よりもこの条件が緩和されています。
具体的には、「採用後の調査や試用期間中の勤務状態等から、採用前に知ることのできなかった重大な事実が判明し、試用期間の趣旨や目的から見て客観的に相当と認められる場合」に限って、本採用を拒否することができるとされています。

 

(3)本採用の拒否と解雇予告

 上記の通り、本採用の拒否も解雇にあたるため、解雇予告または解雇予告手当が必要です。
試用期間の満了日を契約解除の日とする場合も、解雇予告について留意する必要があります。
具体的には、解約の30日前までに本採用の拒否を予告しつつ、契約解除の日までを最終的な観察期間とし、逆転(本採用)の余地を残す旨を通知するなどの実務対応が考えられます。
なお労働基準法では解雇予告の対象外となるケースが4パターンに限定して定められており、「試みの使用期間中の者」も対象外とされています。
ただし、それぞれ対象外となる期間も限定されており、「試みの使用期間中の者」については14日を超えて引き続き雇用されている場合は、解雇予告または解雇予告手当の支払いが必須とされています。
一方、双方の合意により雇用契約を解除する場合は解雇予告の法規制の対象外となりますが、トラブル回避の観点からは、早期に本人と協議の場を設けることが望ましいものと考えます。

 

(4)本採用拒否によるトラブルを回避するために

 本採用拒否について、「不当解雇であり無効と主張される」「解雇予告手当の支払いを求められる」といった無用なトラブルを抑止するためには、次のような対応が考えられます。

① 雇用契約書や労働条件通知書に試用期間を明記し、本人に周知しておく。
② 事前に就業規則等に本採用を拒否する理由を定め、本人に周知しておく。
③ 事前に本採用拒否の判断の時期や手続きを明確に定め、本人に周知する。時期については解雇予告の日数を考慮する。
④ 本人の職務態度等に問題がある場合は、改善のために必要な注意、指導を徹底し、書面記録を保管する。
⑤ 担当職務や労働条件の変更、試用期間の延長等、本採用拒否を回避する余地がないか検討する。

 

(5)試用期間中の社会保険、労働保険は?

 社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金保険)と雇用保険については、試用期間中であっても、強制加入の基準を満たす場合は加入する必要があります。
労災保険については、労災保険の成立している事業場に雇用されている労働者はフルタイム、パートタイム等を問わず、すべて被保険者となります。

 

(6)試用期間の長さ、延長・短縮は?

 試用期間の長さに関する法規制はありませんが、長すぎる試用期間の定めは、労働者を不当に不安定な立場におくものとして無効と判断されることがあります。
具体的には判例等から、1年程度までは有効と考えられます。通常は3ヶ月、6ヶ月、2ケ月といった期間設定が多く見受けられるようです。
試用期間の延長についても同様に法規制はなく、就業規則等に根拠を定めて運用することができます。
ただし同様に長期間にわたる試用期間は問題視されますので、試用期間の趣旨からみて延長の判断基準に合理的な理由があるか、期間の長さは適当か等、十分に留意なさってください。

 

(7)試用期間中に行方不明になってしまったら?

 試用期間中の社員が無断欠勤を続ける場合、就業規則の懲戒事由に該当し、制裁の対象となることも想定されます。
ただ、こういった場合には本人にやむを得ない事情があることも考えられます。
まずは緊急時の連絡先(本人以外)への問い合わせや自宅訪問等により、本人に連絡を取り、事実関係を確認することが適当と思われます。
また本人に対しては、①就業の再開を命じたうえで②本人の職場復帰や事情説明を待って③制裁の有無や本採用の可否判断等を判断する、という姿勢で臨むことが妥当と考えられます。
就業規則の退職の定めの項目に、「本人と連絡が取れなくなった場合、一定の期間の経過を待って自然退職とする」旨の規定を設ける等の対応も一般的です。