終業後の研修、接待などの時間は労働時間か

採用前後の研修、見学中の賃金や時間の扱いはしばしば労務管理上の検討課題となります。以前「企業実務」(日本実業出版社)に寄稿させていただいた内容を編集して掲載しています。

労働時間」は賃金計算や健康管理、業務上災害の認定などと密接な関係があります。

所定勤務時間以外の接待や研修など、「業務の密度の低い」時間が労働時間にあたるかどうかは、過去の裁判で判断基準が確立されています。
過去の最高裁の判例を見ますと、労働時間は「労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間」としています。そのうえで、所定労度時間「周辺の」時間帯が、労働時間なのかどうかは、従業員の行為が「使用者の指揮命令下におかれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」と判断しています。さらに、この基準は客観的なもので、労働契約、就業規則、労働協約等の定めなど、当事者で取り決められるものではないとしています。(三菱重工業事件最判平12.3.9)

労務管理の実務上は、その時間帯の従業員の行為が会社や上司の指揮命令下にあるかどうか(=業務性)、義務付けまたは余儀なくされた状態にあるかどうか(=拘束性、関与性)を検証し、対応していく必要があります。

【どこまでが労働時間か 判断要素の一例】
① 指示命令や参加義務の有無と強度
② 規則や内規上の規定の有無と強度
③ 不参加の場合の不利益取り扱いの有無と強度
④ 業務との関連性の有無と強度
⑤ 業務遂行上の必要性と強度
⑥ 法令上の義務
⑦ 業務からの解放の有無と強度

 

業務と関連性が薄い場合の判断基準
接待飲食研修など、業務との関連性が薄い時間帯であっても、労働時間と判断されるケースがあります。

①就業後や休日の取引先の接待
原則として、労働時間ではないものとして取扱います。ただし、労働災害に関する過去の判例などを見ますと、業務性が認められるケースもあります。

接待行為が労働時間とされる事例
・会社や上司からの特命がある場合
・接待中に明確に区別された業務時間がある場合はその時間
・幹事等としてもっぱら準備、運営、送迎を担当した場合

②終業後の社内研修(参加が強制されていない場合)
強制的な命令や指示の有無のほか、実質的に出席の強制があるかどうかで判断します。参加がまったく自主的なもので本人に委ねられていて、業務とも関連性が薄く、参加しなくとも支障がない場合には労働時間にはあたりません。

終業後の社内研修について、実質的な出席の強制があるかどうかの判断要素
・出席しない場合の不利益取扱の有無
・教育、研修の内容と業務の関連性の有無
・不参加による本人の業務の支障の有無

③全員参加が前提の終業時間後の懇親会
従業員の全員参加が前提とされている場合で、強制参加の命令があるときは労働時間と判断されます。命令のない場合でも具体的な判断は参加の強制方法や、不参加の場合の不利益取扱の程度等の要素を考慮する必要があります。幹事などが自己の職務として懇親会の準備や運営にあたる場合は、飲食接待や接待ゴルフと同様、労働時間として取り扱います。

④全員参加が前提の会社行事
懇親会と同様に取り扱います。幹事役や世話役が職務として準備・運営に当たる場合の労働時間算入についても、同様に判断します。

⑤健康診断の受診時間
労働安全衛生法に定める一般健康診断は、法令上義務付けられたものではありますが、一般的な健康の確保を目的としたもので業務との関連性はありません。このため、原則として労働時間に算定する必要はないとされていますが、従業員の健康の確保が事業の円滑な運営の不可欠な条件であることから、その受診に要した時間分の賃金を支払うことが望ましい、とされています。
対して、特殊健康診断については、事業遂行上当然実施されなければならないもので、その実施に要する時間は労働時間とされます。

⑥安全衛生教育の時間、安全・衛生委員会の開催時間
労働安全衛生法に定める安全衛生教育や、安全・衛生委員会の開催に要する時間は労働時間とされます。

 

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