年度更新を前に 賃金と各種手当の解説 

再来月6月から7月10日まで、労働保険の年度更新の手続き期間となります。

今回はまず労働基準法に定める「賃金」について定義を確認したうえで、「通勤手当と交通費」「休業手当と休業補償」「労働保険料の算定対象になる賃金」といった切り口から、これまでご質問のあった内容についてとりまとめました。

労働保険の年度更新や記事の内容等について、詳細はご相談ください。

 

1.そもそも「賃金」とは

労働基準法(労基法)の賃金の定義

労基法では、名称(給料、手当、賞与など)を問わず、事業主が労働の対価として労働者に支払うすべてのものをいう、と定めています。
ただし、恩恵的・任意的な給付(退職金、慶弔見舞金など)や福利厚生的な給付休業補償、出張旅費・日当や交通費など実費弁済的な給付は賃金にあたらないとされています(恩恵的・任意的給付については、就業規則等で支給条件が明確な場合、賃金とされます)。

労基法の「賃金支払の5原則」

事業主は、「賃金」を、【1】通貨で、【2】全額を、【3】直接労働者本人に、【4】月1回以上、【5】期日を定めて支払う義務があります。
賃金から社会保険料や所得税など法定外の控除をするときは、過半数労組か労働者の過半数代表者と協定を締結しなければなりません。

 

2.通勤手当、交通費・旅費・日当について

「通勤手当は賃金か」

法的な支払義務はなく、恩恵的かつ実費弁済的な手当ではありますが、労働の対価として賃金であるとされています。労働保険料の算定基礎額に含まれる他、社会保険料の報酬にも含まれます。社会保険では、3ヶ月を超える月数分の定期券や定期代を年数回支給する場合も、支払上の便宜によるものとし、1ヶ月平均した額を月々の報酬に含めます。

「交通費・旅費・出張日当は賃金か」

旅費規程などで規定する出張旅費や日当、その他業務にともなって生じた交通費などは、事業主が通常負担すべきもので、実費弁済とされ、賃金とされません。実務上は、給与所得として課税されず、労働保険料や社会保険料の算定対象にもなりません。

 

3.休業手当・休業補償・解雇予告手当について

「休業手当は賃金か」

会社(事業主)都合で労働者を休業させたときは、休業させた所定労働日について、平均賃金の6割以上の手当(休業手当)を支払わなければなりません。この休業手当は賃金とされ、給与計算等で通常の給与と同様に取り扱います。
ちなみに平均賃金とは、直近3か月間にその労働者に支払われた賃金総額をその期間の総日数で除した金額をいいます(原則の計算式で、例外もあります)。

「休業補償は賃金か」

労働者が業務上の負傷や疾病による療養のために職場を休む場合、最初の3日目までは会社(事業主)が平均賃金の6割を支払わなければなりません(4日目からは労災保険から給付があります)。この休業補償は、6割を超える場合でも、休業補償である限りは賃金とされません。

「解雇予告手当は賃金か」

労働基準法により、事業主が労働者を解雇するときは、少なくとも30日以上前に予告するか、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません(平均賃金を何日分か支払う場合、その分予告期間を短縮できます)※。後者の相当額を解雇予告手当といいます。解雇予告手当は賃金とされません。

※ 天災事変などやむをえない理由で事業継続が不可能となったときや、労働者本人の責に帰すべき事由による解雇で、事前に労働基準監督署の認定をうけたときは予告や予告手当の必要はありません。

 

4.労働保険の年度更新と対象となる賃金

「労働保険料の申告と納付」

労働保険の保険料は、毎年4月から翌年3月末までの1年間、全労働者(雇用保険については、被保険者のみ)に支払う賃金総額に、業種別に定められた保険料率を乗じて算定します。
実務上は、毎年6月1日から7月10日までの「年度更新」の手続きで新年度の保険料を概算で納付し、同時に前年度の確定額と概算額の差額を精算します。

「労働保険料の対象とならない賃金」

今回ご紹介した中では、恩恵的・任意的な給付である退職金や慶弔見舞金などは、就業規則等に定めがあるかどうかを問わず、算定対象となりません。
賃金とされない手当等についても同様に対象外となっています。