年次有給休暇の時季指定義務と実務② 

 今般、労働基準法が改正され、来年4月1日から、①すべての企業において、②年次有給休暇(以下、「年休」)を10日以上付与されている労働者について、③年休のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが必要となりました。

 ただし、年休を5日以上取得済みの労働者については、使用者による時季指定は不要です。

 また「本人が指定して消化した日数」や、「計画年休制度で付与した日数」は、年5日の時季指定義務から差し引くことができます。(概要は、本ニュース2018年9月号に掲載済です。)

 新制度のスタートまではまだ時間がありますが、年末を控え、来年の勤務カレンダーを用意される企業もあるかと思われます。以下、留意事項を改めてまとめました。

ア.パートタイマー等の一部も制度の対象に

 パートタイマー等であっても、週所定労働時間数が30時間未満の短時間労働者で、週所定労働日数が3日(または年間所定休日数121日~168日)または4日(または年間所定休日数169日~216日)のときは、勤続年数が一定の期間を過ぎると、1回に付与される年休の日数が10日を超え、この制度の対象となります。(下の表をご参照ください。)

 週所定労働日数が週4日または年間169~216日のときは3年半経過後から、この制度の対象となり、5日間の時季指定義務が生じます。

 また週所定労働日数が週3日または年間121~168日のときは5年半経過後からこの制度の対象となります。

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イ.年休管理簿の作成義務と様式

 取得状況を把握するため、企業等に対し、会社等に対し、各人別に時季、日数、基準日等を記録する「年休管理簿」の作成が義務付けられる予定です。

 今年9月7日の厚労省の通達によれば、この管理簿は年休を付与した期間中と期間満了後の3年間について、保存義務が課されています。

 実務上は、①入社日など勤続年数に関する情報、②付与時季(基準日)と付与日数、③消化時季と消化日数、④失効時季と失効日数、⑤残日数、⑥時間年休に関する記録(②~⑤と同様)を記録される例が多いかと思われます。

 またパートタイマー等も、週所定労働日数が1日以上か、年間所定労働日数が48日以上のときは年休が所定労働日数に応じて比例付与されます。(上の表をご参照下さい。)

 同様に管理簿を整備する必要がありますので、ご留意ください。

ウ.年休を前倒しで付与する場合の時季指定義務

 「雇い入れと同時に10日を付与する場合」など、法定の基準日(雇い入れから半年後)より前に10日以上、年休を付与する場合は、使用者は付与した日から1年以内に5日、時季を指定して取得させなければなりません。

エ.入社年と翌年で指定義務の履行期間が重なる場合

 「入社半年後に1回目の付与。2回目以降は入社日に関わらず直後の4月1日に付与する場合」など、指定義務の履行期間が重なる場合、初回分の期間と2回目分の期間を通じた期間を履行期間とし、その長さに応じた日数(比例按分した日数)を時季指定して取得させる方法も認められます。

 たとえば、「①4月1日に入社し10月1日に10日付与。②翌年は4月1日に2回目の11日を付与。③以降、毎年4月1日に年休付与。」というケースでは、「①と②の履行期間を通じた期間である10月1日から翌々年3月31日までの18ヶ月間を履行期間」とし、「履行期間18ヶ月を12ケ月で除した数に5を乗じた日数(18ヶ月÷12ヶ月×5=7.5日)」を期間中に時季指定することができます。

オ.10日未満の年休を基準日より前に付与する場合

 「入社後、毎月1日ずつ年休を前倒しで付与する場合」など、年休のうち、10日未満の日数を基準日より前に付与する場合は、前倒しで付与した日数が10日となった日が基準日とみなされ、時季指定義務が課されます。

 この場合、基準日より前に取得された年休の日数は、時季指定は不要です。

 たとえば入社半年までに6日付与され、そのうち3日を取得した場合、基準日以降1年間に時季指定しなければならない年休日数は2日となります。

カ.年次有給休暇を取得させるときの流れ

 時季指定義務の制度により年休を取得させる場合は、あらかじめ労働者に伝えたうえで、取得時季について、本人の意見を聴取しなければならないとされています。また時季を決める際には、できる限り本人の希望に沿った時季指定となるよう、聴取した意見を尊重するよう努めることとされています。

 具体的な例として、9月7日付の通達では、「例えば、年度当初に労働者の意見を聞いた上で年休取得計画表を作成し、これに基づき、年休取得を付与することなどが考えられる」としています。

 また「計画的付与制度」により取得させた年休日数については時季指定義務が不要となるため、事前に同制度を導入することも現実的です。

キ.計画的付与制度の実務

 「計画的付与制度」とは、労働者各人の年次有給休暇のうち、年間5日を超える分について、企業と労働者の過半数代表(または過半数労組)との労使協定を結ぶことで、計画的に割り振ることができるというものです。計画的付与制度は、次のように様々な形式で活用されています。

① 企業もしくは事業場全体による一斉付与方式
② 班、グループ別の交替制付与方式
③ 年休取得計画表による個人別付与方式

例1.夏季・年末年始等の一斉付与方式

 盆・暮の会社所定休日に、一斉付与の年休を組み合わせることで大型連休を設けることができます。 「変形労働時間制」等により、事業場の年間カレンダーをあらかじめ用意される場合等、上記①②の組織単位での付与方式による例が想定されます。

 個人別の付与方式であっても、たとえば夏季の計画付与はおのおの7~9月にX日、年末年始は12~2月にY日といったように、ある程度まとめて休日を確保させることができます。

例2.ブリッジホリデーとして3~4連休を付与

 飛び石連休の中間の平日に年休を計画的に付与することで、3~4連休を可能とし、また事業全体で休日、休暇の計画を立てることができます。こちらも①②のように、組織単位で導入するケースが多いようです。

ク.年次有給休暇と賃金計算について

 年休を取得した日や週、月等の割増賃金の計算においては、実際に労働した時間に基づいて計算することとされています(実労働時間主義)。

 年休分について、所定の賃金を支払ったうえで、実労働時間に応じた賃金(割増賃金を含む)を計算してください。

 その他、歩合給などの出来高払制の給与がある場合の年休分の賃金については、支払不要等、誤解も多いようです。下記のように計算する必要がありますので、ご留意ください。

「年休は通常の賃金を支払う」場合(出来高払制)

①年休を取得した賃金計算期間の出来高払制による賃金の総額をその期間の総労働時間数で除した額に、②その期間の1日平均所定労働時間数を乗じた額が年休1日あたりの賃金となります。

「平均賃金を支払う」場合(出来高払制)

労働基準法に定められた計算方法により、最低補償額を上回る額を支払う必要があります。

パートも含めた在職者の年休数の確認、労使協定の締結や変形労働時間制等、詳細はご相談ください。(塩澤)